ポリプロピレンのガラス転移温度(Tg)が不正確になる原因とその対処法
高分子科学者や製品技術者は長年、示差走査熱量測定(DSC)や動的粘弾性測定(DMA)といった標準的な手法に依存し、材料のガラス転移温度(Tg)を特定してきました。しかしこれらの従来手法は時間がかかるうえ、特に精度と再現性が重視される場面では誤った結果を導くことがあります。
もし自らの Tg 測定データが実際の使用環境での材料挙動と一致しないと疑ったことがあるなら、より深く検証することは十分に合理的です。
従来の Tg 測定法の課題
DSC の限界: DSC は熱容量の微小な変化としてガラス転移(Tg)を検出します。しかしポリプロピレンのような材料の場合、この熱容量変化が微弱で結晶領域によって容易に埋もれてしまうことがあります。DSC は一部の熱可塑性樹脂に対しては有効ですが、試験条件の厳密な設計と測定結果の高度な解釈能力が不可欠です。弊社の調査では、ASTM の標準測定法を用いた場合でもポリプロピレンの Tg を明確に特定することが困難であり、一部の用途ではより信頼性の高い手法や補完的な測定技術が必要であることが示されました。
弊社が ASTM 規格 D7426 に準拠して実施した最近の調査では、ホモポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマーの 3 種類のポリプロピレン(PP)グレードが、DSC 測定ではいずれも – 35℃という平坦で画一的な Tg 値を示しました。この数値は、実際の分子レベルでの挙動から最大 40℃もずれている結果です。
DMA の欠点: DMA は感度が高く、材料の力学的転移点を特定できる一方で、測定時間が長く、高度な専門知識を持つオペレーターが必要です。また、日常的な品質管理(QC)や配合スクリーニングには不向きです。特に室温以下の測定では、試料の熱処理時間を含めて通常 1~2 日を要し、液体窒素による冷却と複雑な試料前処理が必須となります。
スピードが要求される生産現場や開発初期段階の配合検討では、これらの制約は大きなボトルネックとなります。
見落としがちな問題点
不正確な Tg 値や測定漏れは、以下のような問題を引き起こす可能性があります。
- 低温環境下での予期せぬ脆性化
- 構造部品のクリープや変形
- コポリマー間やリサイクルブレンド材同士の比較における誤判断
- コールドチェーン用包装材や自動車内装部品向けの規制試験の不合格
Tg 測定データに誤差があると、樹脂選定から最終製品の性能まで、あらゆる段階で悪影響が生じます。
迅速な測定手法:低温領域対応振動レオメトリー
アルファ・テクノロジーズのプレミア ESR(密閉式試料レオメーター)を低温測定技術と組み合わせることで、弊社は 3 種類のポリプロピレンの Tg を液体窒素を使用せず、1 時間以内に測定することに成功しました。
振動せん断試験により、+190℃から – 25℃の温度範囲における損失弾性率(G”)を追跡した結果、各グレードごとに明確に異なる Tg 値が得られました。
- ポリプロピレンホモポリマー(HP):8.36℃
- ポリプロピレンブロックコポリマー(BcP):-4.75℃
- ポリプロピレンランダムコポリマー(RcP):-14.68℃
今回の実験において、これらの結果は DSC による測定よりはるかに明確な傾向を示しました。損失弾性率(G”)のピークから算出した各材料の Tg 値は、ホモポリマーが 8.4℃、ブロックコポリマーが – 4.8℃、ランダムコポリマーが – 14.7℃となりました。この数値の違いは、エチレン成分の導入による影響を反映しています。エチレンの共重合により分子鎖の柔軟性が高まり、Tg 値が低下するのです。
ポリプロピレンの主鎖は、炭素原子 1 つおきにメチル基が結合した嵩高い構造であるのに対し、ポリエチレンセグメントは直鎖的な構造を持つため、より低い温度で分子運動が開始されます。このため、エチレンとの共重合により Tg 値は一貫して低下する傾向が見られます。
本手法の優位性
複数の測定機器を用いて数日間の試験を実施する代わりに、密閉キャビティ型 ESR による 1 回の測定で、Tg(ガラス転移温度)、Tm(融点)、複素せん断粘度を同時に取得することができます。
導入効果
- 樹脂ブレンドやコポリマー配合の迅速な検証
- 材料の力学的転移点に対する高い感度
- 実使用環境での力学的挙動と一致する実験室データ
- ポリプロピレンの日常生産における品質管理プロセスの効率化
詳細な結果をご覧になりたい方へ
低温レオメトリーを用いたポリプロピレンのガラス転移温度測定法に関するホワイトペーパー『Pinpointing Polypropylene Glass Transition Temperatures Using Sub-Zero Rheology』をダウンロードしてください。本資料には、詳細な測定手法、DSC と ESR の測定結果比較、実践的な導入ガイドラインが記載されています。





